曲げわっぱ弁当箱が代名詞の「山家漆器店」は、室町時代から続く紀州漆器の産地、和歌山県海南市で、木製製品を中心とした紀州漆器の製造・販売を代々行ってきた。自社の職人が一点一点手作業で研磨・塗り加工を施しているのが特徴だ。現在は、四代目の山家優一社長を中心にEC事業を展開している。
今回受賞した金田さんは、4年前に入社し、毎日自宅から車で30分かけて通勤している。パート勤務ということも踏まえると、決して近いとは言えない距離だが、面接時に商品を見せてもらい、その美しさに一瞬で心を奪われたと言う。

「曲げわっぱの弁当箱を見せてもらったんですが、すごくかわいくて。これを“作る”ってすごいなって感動して、ちょっとでも携われたらなと思い、ここで仕事がしたい!頑張りたい!となりました」
主に検品業務を任されている金田さんは、一点一点、目で見て触って、品質で気になることがあれば、その都度、恵美さん(山家会長の奥様)に確認をすると言う。
「傷が入っているようなときなんかは、『そうやね、これは外しておこうね』みたいに言って接してくださる。いつも相談しやすくて、個人的に気になって私がはじいたときでも、気軽に会長に確認してくださるので、とってもやりやすいです」
鋭さの原点は「没頭力」

金田さんが入社する以前は、家族全員で検品作業を行っていたが、今では金田さんに安心して任せきることができているという。金田さんの検品について、恵美さんはこう話す。
「一点一点厳しく見てくれて。これは木目だから『これぐらいだったらいけるかな』というものも、念のため確認してくれています。塗装する前の木地なんかは、隙間や傷が無いかもキッチリ見てくれるので、とても頼りにしています」
実は前職でも検品業務をしていた金田さん。高級ゼリーなどを取り扱う食品業界に勤務し、髪の毛が一本でも見つかったら全て開封するなど、非常に厳しい基準で8年間検品業務にあたっていた。その経験から、自分が買ったときに「これだったら納得」という検品視点を持つようになったそうだ。自身のことを、一つのことに没頭するタイプだと教えてくれた。
「子どもが小学校から高校まで、ずっと野球をやっていたんです。私は仕事もしていて大変だったんですけど、どうやったら上手になるかとか、身体も大きくするために食べさせてとか、とにかく子どものことで没頭してました。性格的に、どうしてもグレーができないんです。白か黒なんです。なんでも一生懸命になってしまう。自分でも、他の人より融通が利かないなぁとは思ってます。もっとグレーに生きれたら良いのになとも思うんですけどね(笑)」

信じてくれるから、応えたい。
コロナ禍に入り、ここ数年の出荷件数は約1.5~2倍に増えたが、驚くことに返品率はあがっていない。山家漆器店の商品レビューには以前から高い評価が多いが、「思った通りの商品が届きました」「美味しいお弁当を食べられてます」など、喜びの声は続いているという。これは金田さんの貢献によるところが大きいと、山家社長は話す。「金田さんの検品力は入社当初から本当に丁寧で鋭く、山家漆器店の品質を維持してくれているのは確かです。縁の下の力持ちになってくれています」
鋭い検品力で会社を支える金田さんに、仕事への想いについて訊いた。
「会長が丹精を込めて作ってくださるお弁当箱の、バトンを受け取るというか。そんな大袈裟なほどはしていないんですけどね(笑)でも、気持ちは一緒に“良い商品を届けたい”という想いがすごくあります。自分が見落とすことで、お店の名前に傷がつかないように私がしっかり検品しないとって。
そもそも、木や漆器に詳しいわけではない人間を信じてくれている。それはすごいことだと思うし、私もそれに応えたいなと思っています」




伝統を守り、未来へ
70年以上も続く伝統産業が、昨年10月に法人化し、新たなスタートを切った。伝統ある山家漆器店のクオリティーを鋭い検品力で支える金田さんには、「商品愛」と「職人へのリスペクト」がある。だからこそ、山家会長に対して抱えている、ある想いがあった。
金田 「会長が仕上げてくださったお弁当箱を素人の私が検品して、問題があれば何も言わずに直してくださってる。それが私にとっては申し訳ないというか」
山家会長 「多少厳しい目で見てもらった方が良いんで、助かってますよ」
金田 「私のような木や漆器のことを全然知らない人間が検品して、良いのかなと常々思ってます」
山家会長 「木の隙間なので割れているわけではないのに、お客さんの中には『割れてる』と思われる方もいる。そういう声なんかはだいぶ減って、すごく助かってます。直せるものなんで。今まで通りやってもらえたら」
金田 「大丈夫ですか?私で」
山家会長 「信用してるっちゅうか、入ってきてもらって本当に良かったです。山家漆器店のマドンナなんで(笑)」
金田 「いやもうそんな!ありがとうございます。これからもよろしくお願いします」
伝統ある山家漆器店の品質を守る。金田さんの冷めることのない静かな情熱が、山家漆器店のバックヤードを支えていた。


RECOMMENDER'S VOICE
家族経営から少しずつ会社っぽくなりつつある山家漆器店を初期から支えてくださっておりいつもありがとうございます!卸販売、ネットショップなどで漆器製品を販売している当社にとって製品の品質や梱包の丁寧さは大きな武器です。いつも支えていただき感謝です!